この記事はPRが含まれていますが、直接取材・調査した一次情報を元に書かれています。
経営者であればM&Aはよく知っておくべきことのひとつですが、あまり詳しくない方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、
- M&Aの基本知識
- M&Aのメリット・デメリット
- M&Aの大まかな流れ
などをご紹介します。
M&Aを上手く活用すれば、企業の規模に関係なく事業を大きく成長させることができますよ!
M&Aとは:直訳で「合併と買収」
M&Aは英語の「Mergers & Acquisitions」の略。
これを直訳すると「買収と合併」、つまりM&Aは事業や企業の買収を指します。
M&Aと一言でいっても企業の吸収合併方法は多岐にわたり、今回ご紹介するだけでも大枠は、
- 「合併」
- 「買収」
- 「分類」
の3種類、それぞれをさらに細かく分ければ8種類です。
M&A | 合併 | 吸収合併 | 他の企業を一社に吸収する形での合併 |
新設合併 | 合併する全社をもとにした企業を新設する形での合併 | ||
買収 | 事業譲渡 | 事業の一部を他社に譲渡すること | |
株式譲渡 | 株式の譲渡によって企業の経営権を他社に譲渡すること | ||
株式交換 | 組織再編行為の一つで、100%親子関係を実現する方法のこと | ||
新株引受 | 新たに発行した株式を他社に引き受けてもらうこと | ||
分割 | 新設分割 | 新しく設立する会社に権利義務の全部または一部を承継させること | |
吸収分割 | 既存の他社に権利義務の全部または一部を承継させること |
M&Aの種類①:合併
最初にご紹介する合併は、複数の企業を一社にすること。
企業のM&Aと聞いて多くの方が想像するのが、この合併ではないでしょうか。
吸収合併:他の企業を一社に吸収する形での合併
合併する全企業のうち1社のみ法人格を残し、他社の法人格はすべて消滅した状態で、法人格が残る企業に権利義務を継承させるのが吸収合併です。
■ A社・B社・C社がA社の法人格を残して吸収合併する場合
- B社とC社の権利義務はすべてA社に継承された状態
- B社とC社の法人格は消滅。
- A社のみが残る
吸収合併後は、A社の名のもとにB社とC社の事業などが残ります。
新設合併:合併する全社をもとにした企業を新設する形での合併
吸収合併では1社のみの法人格を残すのに対して、すべての企業の法人格を消滅させて、新設する企業に権利義務を承継させるのが新設合併となります。
M&Aで、合併をする企業のほとんどは吸収合併の形を取るため、新設合併はレアケースです。
吸収合併と同様にA社・B社・C社が合併する場合は3社すべてが法人格を失い、新たに設立されるD社に3社の権利義務が継承されます。
M&Aの種類②:買収
買収は、他社の株式を獲得することで、その企業の経営権を得ることをいいます。
合併と異なるのは、買収後も被買収企業が存続するケースがほとんどで、買収と子会社化はほぼ同義です。
事業譲渡:事業の一部を他社に譲渡すること
事業譲渡は、他社に事業の一部を譲渡することをいいます。
たとえば、
- ペットショップ併設型のペットカフェを経営しているA社
- 居酒屋とレストランを経営しているB社
この2社間で行われる事業譲渡はどうでしょうか。
B社がA社のカフェ事業だけを欲しい場合、事業譲渡が成立すればA社はペットショップ事業のみになり、B社は居酒屋とレストラン、カフェを経営することになります。
株式譲渡:株式の譲渡によって企業の経営権を他社に譲渡すること
株式譲渡は、株式の譲渡によって企業の経営権を他社に譲渡することをいいます。
- ペットショップ併設型のペットカフェを経営しているA社
- 居酒屋とレストランを経営しているB社
事業譲渡と同じ例の場合、B社はA社のペットショップ事業も一緒に買い取ります。
具体的には、実質的な経営権を得るには半分以上の株式を保有しなくてはいけません。
株式の保有率と経営権の変遷は次の通り。
株式保有率 | 経営権の有無 |
1/3未満 | ただの株主(経営権はなし) |
1/3以上 | 重要事項の否決権を獲得(経営権はなし) |
1/2以上 | 過半数の役員を選任可能(実質的な経営権の獲得) |
2/3以上 | 完全な経営権の獲得(100%株式を保有すると完全子会社化) |
また、株式譲渡と事業譲渡の違いについて曖昧な方は、以下の記事も参考にしてみましょう。
似ているけど違う!株式譲渡と事業譲渡の違いとメリット・デメリット株式交換:組織再編行為の一つで、100%親子関係を実現する方法のこと
株式交換とは、お互いの株式を交換することによる組織再編行為のひとつです。
2社間の株式交換の最大の目的は、片方がもう片方の完全子会社化です。
例として、株式交換によってA社をB社の完全子会社にします(Bの完全親会社化)。
- B社はA社の株式を取得
- A社の株主は持っているすべての株式をB社に渡す(B社はA社の株式を100%獲得)
- B社はB社の株式をA社の株主に渡す
つまり、A社の株主とB社間で株式を交換することになります。
新株引受:新たに発行した株式を他社に引き受けてもらうこと
新株引受とは、企業が新たに発行する新株を他社に優先して引き受けてもらうことをいいます。
新株引受権の対象が株主であれば株主割当、第三者であれば第三者割当と呼ばれます。
以下のようなケースを見ていきましょう。
A社の株式を、
- Bさんが50%
- Cさんが40%
- Dさんが10%
の割合でそれぞれ持っている
上のケースでは、株主割当なら新たに発行される500の株式の引受先は、
- Bさんに250(500×0.5)
- Cさんに200(500×0.4)
- Dさんに50(500×0.1)
といった具合に、それぞれの割合に応じて受け取ることになるということです。
M&Aの種類③:分割
分割とは、企業が事業に関する権利義務の全部または一部を他社に承継させることをいいます。
会社分割とも呼ばれます。
新設分割:新しく設立する会社に権利義務の全部または一部を承継させること
分割によって新しい企業を設立し、その企業に権利義務の全部または一部を継承させることを新設分割といいます。
たとえば、新品・中古問わず書籍を扱っていた本屋Aが、
- 分割によって「新品販売」と「古本販売」を分ける
- 新たに設立した古本屋Bに本屋Aの古本屋事業を継承させる
こういったケースが新設分割です。
この場合、新設分割後の本屋Aは新品のみを取り扱う本屋になります。
吸収分割:既存の他社に権利義務の全部または一部を承継させること
吸収分割とは、新たな企業ではなく既存の企業に事業の権利義務を継承させることをいいます。
たとえば、新設分割の例で登場した本屋Aの古本事業が、中古CDを扱う企業Bに分割継承するとしましょう。
- 本屋Aは新品のみを取り扱う本屋
- 企業Bは中古CDのほかに、古本を扱うBookoffのような企業
になります。
吸収分割の場合、本屋Aは古本事業を企業Bに分割した対価として、企業Bの株式を得ることが一般的です。
この吸収分割ですが、先ほどご紹介した事業譲渡に似ていると思いませんか?
確かに似ていますが、明確な違いがあるのでしっかり押さえましょう。
吸収分割 | 事業譲渡 | |
労働者保護 | 労働継承法を適用 | 労働継承法の適用なし |
債権・債務の継承 | 契約相手の同意は不要 | 契約相手の同意は必要 |
債権者保護手続 | 必要 | 不要 |
分割会社の登記 | 必要 | 不要 |
M&Aのメリット・デメリット
ここからはM&Aのメリット・デメリットを売り手・買い手それぞれの観点でご紹介します。
先にご紹介した8種類のM&Aすべてに共通していえることなので、M&Aを検討されている方は方法に関係なく要チェックです。
売り手のメリット
まずは売り手(合併・買収・分割される側)にとってのM&Aのメリットです。
売り手のメリット1:後継者問題の解決
現在はもちろん、将来の経営も見据えた判断が経営陣には必要で、後継者問題はずっと付きまとう問題です。
家族経営でも子供が跡を継ぐとは限らないため、決して安心できません。
そうしたときにM&Aで事業を他社に渡すことができれば、後継者問題は一気に解決します。
売り手のメリット2:事業の継続と拡大
M&Aによって企業を買収する金銭的余裕がある企業に事業が移るため、資金繰りが原因で事業が途絶える心配はなくなります。
もちろんそれだけの金銭的余裕があるのであれば、ただ事業を継続するだけではなく事業拡大への投資も見込めるのがM&Aのメリットです。
売り手のメリット3:不採算部門の清算
事業譲渡や分割などの事業を部分的に切り離すM&Aでは、不採算部門を清算できます。
不採算部門は、一見買い手が付かないようにみえますが、その事業に新規参入する企業にとっては、不採算でもいいから経験とノウハウは欲しいものです。
売り手のメリット4:創業者利益
M&Aで事業を手放すことで、創業者は金銭を得ることができます。
従業員や事業にとってのメリットではないものの、長年事業に携わり続けた創業者に対する労いも込めたメリットといえるでしょう。
売り手のメリット5:廃業コストなし
M&Aでは事業をそのまま他社に引き継ぐので、自社から事業がなくなっても廃業手続きをする必要がありません。
たとえば、他社との契約途中で事業をたたむ際に発生する違約金などがかからず、M&Aはかなりお得に事業を清算することができる方法といえます。
売り手のデメリット
次に売り手のデメリットについて、5つほど紹介しておきます。
売り手のデメリット1:買手がつかない、希望価格での事業譲渡ができない
売り手が考える売却価格と、買い手が考える買取価格がマッチングしない場合、いつまでたってもM&Aにこぎつけることができません。
また希望売却価格から妥協した価格で事業譲渡をすると、売却価格によっては利益が全然得られない場合もあるでしょう。
売り手のデメリット2:企業文化の融合への適応時間
合併や子会社化の場合、売り手企業は基本的に別の企業の一員として再出発することになります。
経営者や周囲の従業員が変わるため、新しい環境に適応するまでに時間がかかることもあります。
わかりやすい例だと、いままでWindowsのパソコンを使っていたのに合併先ではMacが支給されるといったケースがあります。
売り手のデメリット3:買手による雇用・労働条件の変更、従業員の離職
これもデメリット2と同様で、新しい企業になったことで雇用・労働条件が変更されることもあるでしょう。
新しい条件に納得がいかない社員が離職してしまうリスクは十分に考えられます。
大きい企業ほど、すべての従業員が納得いく条件を用意することは難しいので、離職リスクはある程度避けられないものと考えるべきです。
売り手のデメリット4:取引先の反発や契約打ち切り
M&Aへの反発は内部からだけでなく、取引先から発生する可能性も十分にあります。
企業自体が変わるため新しい企業の経営方針に従うしかないので、現場レベルでは折り合いがつかないこともあります。
最悪の場合は契約打ち切りになってしまう場合もあります。
売り手のデメリット5:権限縮小
M&Aでは株式を他社に渡すことが多く、自社の権限が縮小する可能性は高いでしょう。
経営権など、比較的大きな権限を手放す条件でないと買い手が付かない場合もあるので、M&Aを検討する時点である程度の覚悟が必要です。
買い手のメリット
続いては買い手(合併・買収・分割する側)にとってのM&Aのメリットです。
買い手のメリット1:低リスクで規模とシェアの拡大
他社の既存事業を買い取ることで、比較的低リスクで事業規模やシェアを拡大することができます。
M&Aを使わずに規模やシェアを拡大すると、被買収企業は競合他社になっていたのですから、すでにそこで一定の成果を収めているライバルを減らせる賢い選択です。
買い手のメリット2:事業の多角化・新規事業参入
既に成功している他社の事業に乗っかることで、多角化経営に踏み出すことができます。
新規事業参入にしても、被買収企業が持つノウハウをそのまま持ち越すことができるため、新規事業の勉強をする手間もかかりません。
買い手のメリット3:節税対策
M&Aには、のれんに対する節税効果が発生します。
ここでののれんとは、企業のブランドイメージなどの無形資産のことを指します。
つまりのれんの価値が高い事業を安く購入すれば、のれんを除いた価格に税率がかかるので、それだけでも節税対策になるということです。
買い手のメリット4:技術力向上(既存事業の強化)
既存事業を買い取ることで、被M&A企業のノウハウを吸収することができます。
売り手側が自社より上位の競合であれば、自社の技術水準をぐっと引き上げることにもなるでしょう。
買い手のメリット5:事業成長に必要な時間の短縮
新たに事業を立ち上げずに既存事業を買い取ることで、事業を成長させるための時間を省くことができます。
事業成長には時間はもちろん人手やお金もかかるので、ここを省略できることはかなり大きなメリットです。
買い手のデメリット
次に買い手のデメリットについて、5つほど紹介しておきます。
買い手のデメリット1:想定していたシナジーが生まれない
M&Aにあたって、両社の考えにズレがあったり出身企業ごとの派閥が生じたりすると、思い描いていたシナジー効果が得られない場合もあります。
本格的に新体制へ移行する前に交流の場を作るなど、ミスマッチを防ぐようにしましょう。
買い手のデメリット2:優秀な人材の流出
優秀な人材の流出では、
など、流出した社員の理由は様々でしょう。
特に優秀な人材には早めにコンタクトを取って、できるだけその根源を取り除くケアが必要となります。
買い手のデメリット3:売り手企業との融合がうまくいかない
異なる企業同士が一緒になるということは、それなりに苦労が伴います。
たとえば、
- 社内用語の浸透にも時間がかかること
- A社で禁止されていたことがB社で推奨されていた
など、大きく違う部分もあるでしょう。
M&Aをする以上、避けては通れないデメリットなので、できるだけ早く馴染めるように準備が必要です。
買い手のデメリット4:簿外債務・偶発債務
会計帳簿に計上されていない債務(簿外債務)や、将来的に確定債務になりうる勘定項目(偶発債務)が、M&A決定後に明らかになる場合もあります。
簿外債務はまだしも、偶発債務は自力で避けるにも限度があるので、偶発債務のリスクは長期的に見ておくべきです。
買い手のデメリット5:のれんの減損リスク
買い手のメリット3でもご紹介したのれんですが、M&Aによってのれんの価値が下がってしまう可能性もあります。
たとえば、
という理由で、A社の商品を購入していたファンにとって、B社に合併されたらその商品を継続購入する理由はなくなります。
M&Aのメリット・デメリットのまとめ表
これまでに紹介してきた、M&Aに関するメリットとデメリット20選について、表でわかりやすくまとめておきます。
M&Aをおさらいする際にも活用できますので、ぜひ目を通してみてください。
メリット | デメリット | |
買い手 | 低リスクで規模とシェアの拡大 | 想定していたシナジーが生まれない |
事業の多角化・新規事業参入 | 優秀な人材の流出 | |
節税対策 | 売手企業との融合がうまくいかない | |
技術力向上(既存事業の強化) | 簿外債務・偶発債務 | |
事業成長に必要な時間の短縮 | のれんの減損リスク | |
売り手 | 後継者問題の解決と従業員の雇用の確保 | 買手がつかない、希望価格での事業譲渡ができない |
事業の継続と拡大 | 企業文化の融合への適応時間 | |
不採算部門の清算 | 買手による雇用・労働条件の変更、従業員の離職 | |
創業者利益 | 取引先の反発や契約打ち切り | |
廃業コストなし | 権限縮小 |
M&Aの大まかな流れ(手順)とは
中小企業の場合、M&Aを行う際は基本的に仲介機関を間に挟むものです。
一般的にはM&Aが成立するまでには、6ヶ月~1年程度を見ておくといいでしょう。
ただしホットな業種については、3ヶ月など早期成立することもあります。反面で数年単位の時間を要する業種もあります。
ここでは、M&Aが成立するまでには、どういったステップを踏むのかについて紹介していきます。
STEP①:準備
まずM&Aを行うにあたり、
- M&Aという方法が本当に適切か
- 譲渡する際にどういった方向性で行うのか
- 企業価値はどの程度あるのか
などを見極めていく必要があります。
ただし、M&A初心者の方がこれらに適切な判断を下すことは、そう簡単ではないでしょう。
そのため、どの方向で進めることがより最適な方法なのかについて、適切にアドバイスできる専門家に相談することが一番望ましい選択肢となります。
この段階では、M&Aの案件化をするために、必要な情報をまとめていく大切な段階となりますので、慎重に進めていく必要があります。
STEP②:交渉
まずは「STEP①」で案件化した情報をもとに、匿名で情報開示を行われます。
その情報に対して、興味を持った企業が現れた場合は、さらに詳しい情報を秘密保持契約を締結したのちに開示していきます。
その後、話が進めば経営者同士の面談となり、より詳しい情報や譲渡企業側の経営者自身の素質などを確認していくでしょう。
この面談が、M&Aにおいて重要な段階となります。
STEP③:契約
まずは、M&Aを行うことで、どういった効果や懸念材料があるのかについて調査が行われます。
その結果や「STEP②」で開示された情報をもとに、契約内容を細かく決定していき、双方が納得する着地点を探っていきます。
ここで、お互いの着地点が見いだせれば、めでたくM&Aが成立となるでしょう。
M&Aのメリットやデメリットを理解して目的の達成をしよう
今回はM&Aのメリット・デメリットをご紹介しました。
売り手・買い手ともにデメリットもありますが、M&Aについて学ぶことでデメリットを最小限に抑えて事業を成長させることができます。
ぜひ学んだM&Aのメリット・デメリットを、あなたのビジネスに活かしてくださいね!