事業承継税制ってどんな制度?平成30年の改正で変わった点とは

事業承継税制ってどんな制度?平成30年の改正で変わった点とは

事業承継をする際に大きな負担となるのが、相続税や贈与税です。

税金の負担もあり、引き継ぎが上手くできずに廃業する中小企業も多くなっています。

そこで利用したいのが税金を猶予・免除できる「事業承継税制」です。

この記事では、事業承継税制がどのような制度なのか詳しく解説していきます。また、平成30年に行われた制度の改正内容についても解説しています。

メリット・デメリットや制度利用の流れなどもご紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

事業承継税制とはどんな制度?

事業承継税制とは、中小企業が事業承継をする際の税金負担を減らす制度です。

非上場株式の相続税・贈与税を、納税猶予や免除してくれます。

事業承継は、経営者から後継者へ会社の資産や事業を引き継ぎ、世代交代するためには必ず必要です。

しかし、相続税や贈与税の負担が大きく、事業承継できずに廃業してしまう中小企業が非常に多くありました。

その問題を解決するために作られたのが、事業承継税制です。

平成21年にできた制度でしたが、利用するための条件が厳しく、約2,000件しか利用はありませんでした。

利用しやすくするために、平成30年に大きな改正が行われています。

以前までは、ほとんど利用できない制度でしたが、現在は事業承継の問題を解決する制度として注目されています。

次から平成30年に行われた大きな改正の内容とその申請方法について解説していきます。

平成30年度税制改正の主な内容とは

平成30年度税制改正の主な内容とは

事業承継税制は、これまでは使いにくい制度でしたが、平成30年に大きく改正されて使いやすい制度になりました。

主に変更された点は、

  1. 猶予される税額の割合
  2. 雇用要件の見直し
  3. 対象者の見直し
  4. 納税猶予が取り消されたときの納税額

の4点です。

これまで条件が厳しく、利用できなかった会社でも利用しやすくなっています。

ただし、改正といっても特例措置で期間が決まっており、平成30年1月1日から平成39年12月31日までの10年間限定となっています。

それでは、次から1つずつ解説していきます。

猶予される税額の割合

最も大きな変更点といえるのが、納税を猶予・免除される税額の割合が変更されたことです。

改正前

これまでは、制度の対象となる株式が3分の2と上限が決まっており、その上限内で、

  • 贈与税:100%
  • 相続税:80%

が猶予・免除になっていました。

改正後

今回の改正で3分の2という上限が撤廃させ、全ての株式を対象に、贈与税と相続税のどちらも100%が猶予・免除となりました。

この変更により、株式の贈与と相続で金銭的な負担が一切なくなったことが、今回の大きな変更点となります。

後継者に資産が十分ではなく、上手く引き継げないケースも多かったため、この改正で多くの中小企業が制度を利用することが期待されています。

雇用要件の見直し

雇用要件についても、適用ルールが緩和され、利用しやすいものへと見直されました。

改正前

これまでは制度を利用してから5年間は、平均で8割以上を雇用を維持する必要がありました。

もしも、8割を下回ると猶予されていた税金を支払わなくてはいけません。

ここ数十年で企業の従業員数は減少の傾向にあり、大企業よりも中小企業の離職率が高いなかで、平均8割の雇用維持は難しい課題だったのです。

改正後

しかし、今回の改正で8割を下回った場合でも、報告書を知事に提出し、支援機関からの指導を受けることで制度の適用を続けられます

猶予されていた税金を支払う必要もなくなります。

対象者の見直し

これまでは経営者1人から後継者1人への事業承継が対象でしたが、後継者が複数人(最大3人)でも対象になりました。

10%以上の株式を所有しているなどの条件はありますが、対象者が拡大して利用しやすくなっています。

また、これまで経営者が所有している株式のみが制度の対象でしたが、経営者以外が所有している株式も制度の対象へ変更になっています。

適用範囲が広がったことで、さらに後継者にかかる税金の負担が減りました。

納税猶予が取り消されたときの納税額

制度を利用した後に業績の悪化などが原因で、廃業や事業の譲渡をした場合、民事再生などの例外を除き、猶予されていた税金を納税する必要がありました。

改正後は、廃業や事業の譲渡をした際は、そのときの株価で再計算し、差額があればその金額が免除されます。

赤字が続くなどの業績悪化時にしか適用できませんが、制度を利用するリスクが大幅に減っています。

事業承継税制を利用するための条件

事業承継税制を利用するための条件

ここからは事業承継税制を利用するためには、どのような要件を満たす必要があるのか解説していきます。

平成30年に改正され、使いやすくなったとはいえ、誰でも簡単に利用できるものではありません。

主な要件としては、以下の3つがあります。

利用するための要件
  1. 利用する人が筆頭株主であること
  2. 中小企業であること
  3. 5年間事業を継続する

次から詳しく解説しているので、条件をクリアするようにしましょう。

要件1:利用する人が筆頭株主であること

後継者は、相続が開始される前までに役員に就任している必要があります。

そして相続が開始された時点で、50%以上の株式を所有し、筆頭株主でなくてはいけません。

また、相続が開始された翌日から5ヶ月以内に会社の代表権を所有している必要があります。

代表権に関する話し合いが上手くいかない場合、事業承継税制の利用ができなくなります。

経営者に関しては、後継者とは逆に、

  • 「相続前に50%以上の株式を所有していたこと」
  • 「会社の代表権を所有していたこと」

と、過去形になっていることが要件になります。

要件2:中小企業であること

事業承継税制を利用するには、会社もいくつか要件をクリアしなくてはいけません。

主な要件は、

  • 中小企業であること
  • 会社が上場していないこと

があります。

中小企業として認められるのは、以下の表にある「資本金」と「従業員数」いずれか一方の条件を満たす必要があるので、注意しましょう。

資本金 従業員数
製造業(その他) 3億円以下 300人以下
製造業(ゴム製品製造業) 3億円以下 900人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
サービス業(ソフトウェア業・情報処理サービス業) 3億円以下 300人以下
サービス業(旅館業) 5,000万円以下 200人以下

風俗営業会社や資産管理会社は、制度利用の対象外となります。

また、従業員数が1人以上いることも利用の条件となっています。

要件3:5年間事業を継続する

制度の適用を開始してから、一定の条件をクリアして事業を5年間は継続させなくてはいけません。

主な要件は、以下の3つです。

要件3つ
  1. 雇用の8割を維持すること
  2. 後継者が会社の代表者を続けていること
  3. 後継者が会社の株式を持ち続けていること

雇用維持に関しては、8割を下回っても報告書を提出して、指導を受ければ問題ありません。

他の2つに関しても、経営を通常通り続けていればクリアできるでしょう。

注意

条件を守れなかった場合は、猶予されていた税金を支払わなくてはいけません

事業承継税制を利用するための流れ

事業承継税制を利用するための流れ

ここからは事業承継税制が利用する手続きの流れについて解説していきます。

手順としては、それほど難しいことはありませんが、毎年書類の提出が必要になります。

主な手順は、以下の2ステップだけです。

  1. 都道府県知事の認定を受ける
  2. 税務署への申告をする

では、順に詳しく解説していきます。

手順1:都道府県知事の認定を受ける

制度を利用するには、都道府県知事の認定が必要になります。

これは前述した利用要件を満たしていることを確認するために、必要な手続きです。

相続を開始してから8ヶ月以内に認定を受けなくてはいけないので、注意しましょう。

平成30年に改正された特例措置を利用するには、税理士などの専門家に依頼し、特例承継計画を提出します。

注意

全ての専門家が作成できるわけではなく、国から「経営革新等支援機関」として認定された専門家しか作成できないので、依頼する際は気をつけましょう。

また、特例措置の期間は平成39年12月31日までですが、特例承継計画の提出は平成35年3月31日までとなっています。

手順2:税務署への申告をする

都道府県知事の認定を受けたあとは、

  1. 認定書の写し
  2. 相続税・贈与税の納税猶予に関する申告書

の2つを税務署に提出します。

その際に、猶予される額と利子税の額に見合った担保を提供しなくてはいけません。

担保に関しては、通常は納税猶予の対象となる株式を提供することで認められます。

そして申告後5年間は、

  • 後継者が代表者を続けていること
  • 筆頭株主であること

などの要件を満たす必要があります。

要件を満たしていることを確認するため、年に1回都道府県庁へ「次年報告書」の提出が必要です。

また、制度の利用を続けることを示すために税務署に「継続届出書」を年に1回提出します。

事業承継税制の申請で必要となる書類について

事業承継税制の申請で必要となる書類について

事業承継税制の手順についてお伝えしましたが、申請するにあたって、何点か準備すべき書類も存在します。

たとえば、第一種特別相続認定の場合では、以下のような書類を用意しなくてはなりません。

申請に当たって、提出が必要な書類は下記のとおりです。
1.認定申請書(原本1部、写し1部)(→2P)
2.定款の写し(→2P)
3.株主名簿(→3P)
4.登記事項証明書(→3P)
5.遺言書又は遺産分割協議書の写し 及び 相続税額の見込み額を記載した
書類(→4P)
6.従業員数証明書(→4P~6P)
7.相続認定申請基準年度の決算書類(→7P8P)
8.上場会社等及び風俗営業会社のいずれにも該当しない旨の誓約書(→9P)
9.特別子会社・特定特別子会社に関する誓約書(→10P~13P)
10.被相続人・相続人・その他の一定の親族の戸籍謄本等(→13P)
11.特例承継計画 又は その確認書(→13P)
12.その他、認定の参考となる書類(→14P)
13.返信用封筒(→14P)

※引用元:中小企業庁’(申請マニュアル:第2章第2節添付書類PDF)より抜粋

また中小企業庁では、その添付書類について、パターンごとにPDF資料を用意していますので、自身の用途に合わせて目を通すようにしましょう。

※第一種は「先代経営者から後継者」の場合を指します。

第一種特例贈与認定の場合

中小企業庁:申請マニュアル第2章第1節添付書類PDF

第一種特例相続認定の場合(遺贈も含む)

中小企業庁:申請マニュアル第2章第2節添付書類PDF

※第二種は「株主(先代経営者以外)から後継者」の場合を指します。

第二種特例贈与認定の場合

中小企業庁:申請マニュアル第2章第3節添付書類PDF

第二種特例相続認定の場合(遺贈も含む)

中小企業庁:申請マニュアル第2章第4節添付書類PDF

また特別措置での事業承継税制の申請について、詳細を知りたい方は中小企業庁HPの「法人事業承継税制の前提となる認定」を参考にするようにしましょう。

必要な情報がPDFでダウンロードできますので、必要であれば印刷して手元においておくといいです。

事業承継税制のメリットは納税の猶予・免除

事業承継税制のメリットは納税の猶予・免除

事業承継税制のメリットは、納税を猶予・免除されることです。

事業承継で後継者にかかる税金の負担は、個人にかかる税金よりも非常に大きくなります。

ここ数十年で親族内承継が減り、従業員や外部の人への承継が増えています。

親族外での承継では、事業承継にかかる税金を負担に感じ、後継者を辞退することも多くなっています。

税金が原因になり、事業承継が上手くできずに廃業やM&Aを選択する会社もありました。

平成30年の改正によって利用しやすい環境が整い、利用者が増えていくでしょう。

事業承継税制のデメリット

事業承継税制のデメリット

事業承継税制は、節税になるという大きなメリットがありますが、いくつかデメリットもあります。

主なデメリットとしては、

  1. 途中で取り消される可能性がある
  2. 相続争いに発展する可能性がある
  3. M&Aでは制度を利用できない
  4. 制度に対応できる専門家が少ない
  5. すぐに納税を猶予・免除されるわけではない

の5つです。

利用する際は、デメリットも把握したうえで利用していきましょう。

次からデメリットについて解説していきます。

デメリット1:途中で取り消される可能性がある

事業承継税制は、あくまで納税猶予が目的の制度です。

もしも、前述した要件を満たせなくなった場合は、猶予が取り消しになります。

免除されるのは、経営者・後継者の死亡、さらに次の後継者へ事業承継をしたときです。

世代が代わっても、事業承継税制を利用し続けるのが条件となります。

取り消しになってしまうと、それまで猶予されていた税金を一括で支払わなくてはいけません。

さらに利子も上乗せして支払う必要もあるため、制度を利用したことにより、多くの税金を支払うこともあります。

相続税や贈与税が少なく、後継者が支払える場合は、支払ったほうがお得になるケースもあるので注意しましょう。

デメリット2:相続争いに発展する可能性がある

親族内承継の場合は、後継者に与えられる相続が大きすぎることにより、相続争いに発展する可能性があります。

制度を利用するための要件には「後継者が50%以上の株式を所有」があります。

つまり、後継者に選ばれた親族だけが、大きな遺産を手にする形になります。

これが原因となり、他の親族から不満が出るかもしれません。

遺言書を作成すればいいのでは?

と思われるかもしれませんが、遺言書があっても民法で定められている「遺留分」の制度によって、最低限の配分が決まっています

仮に、不満に思う親族が請求して認められれば、遺言書の内容に関わらず、不足分の遺産を支払う必要があります。

POINT

事前に後継者への株式は遺留分の請求ができないように、相続人から合意を取っておくなどの対策をしましょう。

デメリット3:M&Aでは制度を利用できない

事業承継税制は、買収の際には制度を利用できません。

制度が新しくなり、適用の範囲は広がりましたが、M&Aに関しては、とくに買収の条件が有利になるなどの変化はありません

今後、M&Aを利用しやすいように、買収や譲渡にかかる税金に関しても、対策がされていくと予想されています。

デメリット4:制度に対応できる専門家が少ない

事業承継税制を利用するには、細かい条件などを含めると非常に複雑です。

特例承継計画を作成しなくてはいけないことも考えると、専門家に依頼することになります。

しかし、利用された件数が少なく、制度が誕生してから10年程しか経っていないこともあり、対応できる専門家が少ないのが現状です。

事業承継に関して取り扱ったことのある、税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。

専門家が見つからない場合は、中小企業庁が設けている相談窓口を利用するといいでしょう。

相談窓口の他にも、制度に関するマニュアルなども用意されています。

デメリット5:すぐに納税を猶予・免除されるわけではない

制度を利用するには、一定の要件を満たす必要があり、すぐに実行できるものではありません。

既に大きな改正がされて、利用しやすくなっていますが、準備期間は必要になります。

また、無事に納税が猶予されたとしても、株式だけは保有し続ける必要があります。

後継者が、さらに次の世代へと交代するまで、納税猶予の特例を受ける旨を3年に1回税務署に提出します。

制度を利用するということは、次の世代でも利用を続けていくことになります。

将来的に制度の利用をしない、という選択肢もありますが、少なくとも2代に渡って利用することが前提です。

場合によっては数十年と制度の利用を続けていくことになるので、制度の利用は慎重に検討しましょう。

事業承継税制を積極的に利用していこう

日本の中小企業が持つ、人材や技術力を守っていくためには、事業承継をして次の世代へと引き継いでいかなくてはいけません。

事業承継を考えている経営者は、積極的に制度を利用していくべきでしょう。

もちろん、メリットだけではないため、デメリットも含めて慎重に検討していく必要はあります。

会社のため、これからの世代のために、ぜひ今回の記事を参考に、事業承継の問題解決を進めていきましょう。

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